この講座では、『地震学から宝石合成まで』、『鉱物の外形と結晶の対称性~規則的な美しさを計る~』、『結晶の対称性と宝石の色~赤いルビーと青いサファイア~』をテーマに過去3回、結晶や宝石などのお話をしてきました。今回は、地球内部を理解する上で特に重要なカンラン石という鉱物の大型単結晶合成についてのお話をします。マントル鉱物のカンラン石という名称は一般にはあまり認知されていませんが、その宝石名のペリドットは8月の誕生石として一般にも広く認知されています。このペリドットの大型宝石を人工的に合成する方法と、それが地球内部物理学とどのように関わるのかについて理解していきます。
地震は、断層に加わる力が断層の強度に達したときに発生すると言われています。しかしながら、深さ数km以上の地下深部の力のことはよくわかっていません。深部なので、地表から直接計ることができないことが原因の1つです。地震データを用いる手法が唯一の有効な方法ですが、大量の高精度のデータを必要とするため、あまり進んでいません。満点計画の目的の1つが、この課題の解明にあります。それにより、地震がどのようなところで起こるのか?そこで起こる地震の大きさはどれくらいかといった問いに答えることができるようになると期待されます。地震の『メカニズム解』の解説から始めて、地下深くの力の推定結果まで、わかりやすくお話する予定です。
古墳は3世紀中ごろから7世紀初め頃の約350年間北海道、沖縄を除く日本列島において約5200基が築造されました。近年は、大阪の百舌・古市古墳群が世界文化遺産登録を目指した活動で注目され、これまでとは少し違った形で古墳ブームも起き、古墳は私たちの身近な史跡となっています。本講座では大阪の百舌・古市古墳群とも関係の深いといわれる三島古墳群にスポットをあてます。古墳の墳形や中の構造、外面を飾る埴輪など古墳入門のお話をし、さらに三島地域の古墳について紹介をおこないます。古墳について広く知っていただき、博物館等に足を運んでいただくきっかけになれば幸いです。
前回は『鉱物の外形と結晶の対称性〜規則的な美しさを計る〜』と題して、鉱物の外形から結晶の本質を理解するための『対称性』について考えました。今回は『結晶の対称性』と『宝石の色』の深い関係を紹介します。『赤いルビー』と『青いサファイア』はよく知られていますが、両者とも主成分は酸化アルミニウム(Al2O3)で結晶構造も同じです。100%の酸化アルミニウム結晶(コランダム)は無色透明で、ルビーは少量のクロム(Cr)、サファイアは少量の鉄(Fe)とチタン(Ti)を含みます。それではCrが赤、FeやTiは青でしょうか?例えば酸化クロム(Cr2O3)はルビーやサファイアと同じ結晶構造ですが、その色は『クロムグリーン』としてよく知られる緑です。この場合のCrはルビー中で赤、酸化クロムが緑ですから『Crが赤』とは限りません。実はこれらの色はCr、Fe、Tiが結晶の対称性と深く関わって生じます。結晶中のAlやCrを視覚的に理解し、コランダムが無色透明、酸化クロムが緑、ルビーが赤になる理由を考えます。
2011年3月の東日本大震災で、NHKは巨大地震の発生直後に緊急報道を開始し、私は全国放送のキャスターとして、津波情報の伝達や避難の呼びかけを続けました。しかし、津波から多くの方の命を救うことはできませんでした。震災後、当時の放送内容や自分の心理状態を分析するとともに、放送を見たり聞いたりした沿岸部の住民の方が、情報をどう受け止め、それに基づきどう行動したかについての調査を行いました。災害時、どのように情報を伝えれば人は逃げるのか。災害から命を守る言葉はあるのか。震災後に取り組んだ研究の一端をご紹介します。
日本は『地震国』と呼ばれ、世界の地震の1割が我が国周辺で起きると言われており、日本のどこで地震が起きても不思議ではありませんが、その起こり方には地域的な偏りや特徴が見られます。阿武山観測所の北側に位置する北摂・丹波山地では、日常的に人間が感じないほど小さな地震(微小地震)が非常にたくさん起きています。内陸部で集中的に地震が起きる場所は多くの場合、最近(といっても過去100年くらいという意味ですが)マグニチュード(M)7級の大地震を起こした活断層に沿って活発な余震活動が続いているところだったり、火山の近くで地下のマグマの動きに触発されて群発地震活動が起きている場所です。しかし、北摂・丹波地域で『最近』そのような大地震は起きていません。22年前の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)は、北摂・丹波地域よりも西に外れた場所でしたし、そもそも震災以前から北摂・丹波の活動は続いていました。また、近畿地方に活火山なんて無いこともみなさんよくご存知の通りです。つまり、普段見慣れている北摂・丹波山地の微小地震活動は、全国的に見ても非常に珍しく特異なもので、その原因はほとんどわかっていないのです。阿武山観測所で進められている『満点計画』の研究対象地域の一つは、まさにこの北摂・丹波地域です。けっして手近かな場所だから選んだのではなく、特異な場所なので研究に値するからと言ってよいでしょう。
防災教育として、防災対策の重要性や具体的な方法をお伝えしても、実際の対策はなかなか進まないというのが現状です。事実、例えば、家具の転倒防止を行っていない最大の理由は『やろうと思っているが先延ばしにしてしまっているから』で、『どうやって固定してよいかわからないから』を理由に挙げる人は、1割未満です(内閣府『防災に関する世論調査』)。単に知識や技術をお伝えするだけでは、防災教育としては不十分であることが分かります。今回は、こうした現状を踏まえ、違った角度から防災対策の推進を考えてみたいと思います。一般的な防災対策では、『わざわざ』防災のためだけの活動を行う必要があり、面倒だと感じる方も多いと思います。しかし、日常生活の中に存在する防災対策につながるような生活習慣を見つけ出すことができれば、防災に対するイメージー面倒くさいーも変化するのではないかと思います。そうした日常生活の中にある防災を発見する方法と実例について、生活水準の異なる海外(ネパール)の事例で考えた事等を織り交ぜながら、防災教育としての意義も含めてご紹介します。
自然科学では、過去の出来事や現象などリアルタイムでデータをとることができない場合、その出来事や現象が起こった痕跡を調査し分析することがあります。地震学では地殻変動の痕跡である断層の調査分析などが当てはまるでしょう。一方、生物学では、個体や足跡の化石など様々な痕跡が、生物の過去の生活と進化の様相を示してくれています。では、現在生息している生物が残した痕跡から、生物の生態や行動は明らかになるでしょうか?今回の講演では、チョウの幼虫が残した脱皮殻から明らかになった幼虫の食事の様子と、成虫の遺骸から推定される飛翔行動についてご紹介したいと思います。生物の研究は、リアルタイムに観察された行動から生態や行動などの意味を問う“動”から“動”の視点で紹介されることの方が多いのですが、行動の事後に生じた“静”から“動”を見る視点の面白さを味わっていただきたいと思います。
今から87年前となる1930年(昭和5年)に阿武山観測所を設立、初代所長を務めた、京都帝国大学理学博士志田順氏は、日本の地球物理学の黎明期を築いた先駆者でした。地震のP波初動にある押し引きの4象限分布の発見、深発地震の存在の指摘、また、月と太陽の引力による地球の弾性変形(地球潮汐)に関する研究等、世界の先端を行った業績で知られます。観測所では、2014〜2015年の耐震・機能改修の工事に伴い、観測所内の全ての資料を一端外部へ搬出し、工事後にまた戻すことをしましたが、この際、現在は誰も触れる事がなくなっていた膨大な資料の中に、非常に貴重であると思われる当時の志田氏によ資料等が多くあることを発見・確認しました。そこで阿武山サポーターは、2016年度に有志を募り、地道な作業でこれらの整理とデータベースの作成に取り組みました。そしてその成果を、志田氏の業績を振り返る所内企画展示としてとりまとめました。今回のまんてん地球(terra)子屋は、この阿武山サポーターが発掘し、整理した貴重な資料群の中の主だったものの紹介を通して、志田氏が残した業績を、その背景に流れる当時の人物誌的ヒストリーも加えて振り返る機会とします。今日の地震学へとつながる科学の黎明期の姿を、参加のみなさまと共感しあえることを願っています。
前回(第2回)は『地震学から宝石合成まで』をテーマに、特に地球内部物理学から単結晶合成に至るまでの大きな流れを考えました。今回は地球内部物質の基本となる鉱物や結晶をテーマに、鉱物の外形から結晶の『対称性』を理解する数的思考法について学びます。鉱物の中には規則的な外形を示すものがあります。一般に水晶として知られるセキエイは六角柱状、ダイアモンドは八面体、黄鉄鉱の場合は六面体や五角十二面体へと変化します。このような鉱物の外形は結晶構造とどのような関係があるのでしょうか?実際の鉱物とも比較しながら、正多面体のような比較的簡単な立体を例に、鉱物の外形から結晶の性質を理解する『対称性』について考えてみましょう。
GPSによって日本列島の地殻変動が高精度に観測出来るようになって今年で22年。この間の観測研究により、日本列島は決して一様に変形しているわけではなく、ひずみ速度が特に大きい『ひずみ集中帯』が存在することが分かってきました。太平洋側のひずみ速度の大きな場所は、海洋プレートの沈み込みによって説明できますが、プレートの境界から離れた内陸部や日本海側にもひずみ集中帯が見いだされています。近年発生した内陸地震、例えば、2014年長野県北部の地震、2016年熊本地震、鳥取県中部の地震は、いずれもひずみ集中帯で発生しており、ひずみ集中帯と活断層や内陸地震との関連性が注目されています。本レクチャーでは、西日本、特に近畿地方のひずみ集中帯について解説します。
ボランティア元年と言われた阪神・淡路大震災から21年、日本の災害ボランティアはどのように進化してきたのでしょうか。例えば、災害が起これば被災地に『災害ボランティアセンター』が開設されることが当たり前となりました。全国からやってくるボランティアをコーディネートし、より効率的な災害救援活動を可能にするために機能します。おかげで、ボランティア活動をしたことのない初心者も、積極的に活動に参加できるようになりました。一方で、被災者の『ニーズ』に対し、ボランティアセンターが間に立つボランティアコーディネートによって、いくつもの問題が生じているとも指摘されています。今回のまんてん地球子屋では、2016年熊本地震の被災地での災害ボランティアの具体的な動きを振り返り、最新の状況と課題を通して、ボランティアの現在と未来を見つめます。『困ったときはお互いさま』。ひとりひとりが支え合う社会のためにボランティアにどんな可能性があるのか、一緒に考えてみませんか。
突然やってくる災害に人間は抗うことはできません。災害のあと、前を向いて行きていくために必要なこと、それはなんでしょう……。西宮市に在住で阪神・淡路大震災を経験した薮田さんは、防災・減災に一番大切なのは人と人とのつながりであると実感しています。また、博物館学を選考し養ってきたスキルをまちづくりに応用する発想で、市が推進する事業において形に収まらないユニークな成果を出してきた行政職員でもあります。今回は、薮田さんが取り組んだ『区BCP』という事業、震災、ボランティア等についてのエピソードを披露いただきながら、『ワールドカフェ』というワークショップの手法を取り入れたスタイルで、ゆったりとしたひとときを過ごしつつ、いざ、災害がおとずれたときに心強いまちづくりの進め方について、個々人でもできそうなこと、はじめられそうなことを、いっしょに考えてみたいと思います。
今回の地球子屋では、『防災・減災』のテーマに直球で臨みます。社会が高い減災力を得るためには、私たち自身、地域の暮らしの中でどのようなことに取り組むことができるのでしょう。長年、大型マンションの自主防災活動に取り組み、先駆的な実践をされてきた大西さんを招き、私たち一人ひとりが、コミュニティの減災のためにできることを考えます。
私たち都市部に住む人間にとって、鉄道のない生活は考えられません。また日本に住む以上、地震を考慮しない人生設計も考えられません。『ユレダス』、『構造物の補強』、『津波避難』など、鉄道の地震への備えを紹介し、先進的な部分や、残された課題を見つけます。
地震を研究することによってどのようなことがわかるのでしょう?地震学のうち、地震波解析を出発点に、宝石合成に至るまでの道筋を、理論・観測・実験などの具体例を交えつつ考えます。
地震計ではかるだけが地震について調べる方法ではありません。古文書を読みといて過去に発生した大地震について調べるという研究分野があります。むかしの人が書いたものを読みながら、現代に発生する地震について考えてみましょう。